野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

翻訳家恐るべし

翻訳家の柴田元幸さんは東大文学部の教授でもある。その柴田さんが、実際に東大でやっている翻訳の講義(演習というべきか)を本にしたのが、文字通り「翻訳教室」だ。

翻訳教室 (朝日文庫)

翻訳教室 (朝日文庫)

事前に学生が翻訳してきた課題のテキストをもとにディスカッションをする。単語の選び方から始まって、読点の打ち方、語順、訳出すべきか否か… これでもかというばかりに重箱の隅をつつきまくりで、これがもう、めっぽう面白い。locustはセミかイナゴか。というのに、ここで喚起されるのは聖書のイメージで、旧約聖書の「出エジプト記」でユダヤ人を虐待したエジプト人に罰が当たってイナゴの大群が押し寄せたということになっているからこれはイナゴと訳すべき。とか。
よく言われることだけど、原語の文法だけじゃなくてその背景にある文化や歴史や風俗についての知識と理解がないと、翻訳なんぞできませんな。それに加えて、日本語に対してのデリカシーも。語感というものに対して、ものすごく気を遣っているのがよくわかる。
課題として村上春樹の「かえるくん、東京を救う」(の英訳版)を使っていて、日本語を英訳したものをまた日本語に訳し戻すのが面白いし、村上さんご本人が登場する回もあったりする。岸本佐知子さんが解説を書いてるってのもポイント高い。かなり楽しめる一冊でございました。