個人的にいま、空前のまほかるブーム。というわけでもないのだけど、今度は「彼女がその名を知らない鳥たち」を読んでみた。
シャガールの絵画に繰り返し現れるロバやニワトリのように、まほかる小説には関西弁をしゃべる下品な男や、聡明な姉と残念な妹の二人姉妹が登場する。その神話的意味についてはいずれじっくりと考えてみるとして、とりあえずこの物語においては、下品な男は陣治であり、二人姉妹の妹が十和子である。壊滅的に不器用でだらしない上に
ルサンチマンにまみれ、誰もが生理的に嫌悪感を催さずにはいられないだろう陣治と、絶望に取り付かれ、引きこもって日がな一日DVDの映画を見続けるか、クレーム電話をかけてすごす十和子が、一緒に暮らしている。陣治が昔の男を殺したのではないかと十和子が疑いだして、これぞイヤミスか、と思うと実はミステリーではあるが「イヤ」ではない。ミステリーとしても、途中で「ひょっとしてこういうことですか」なんて読めて来たので、そんなにスゴイわけではないのかもしれない。でもたぶん、これはとても純度の高いラブストーリーなんじゃないかと思う。陣治も十和子も到底マトモではない。でもそんなマージナルな二人だからこそ成り立つ、純度の高さだ。はっきり言って変態だけど。まったく違う話なのに、その変態さ加減から「春琴抄」を連想した。ちょっとばかし衝撃を受けた。