野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

そしてイーヨーも

高校生とか大学生のころ、大江健三郎の小説をあれこれと読みあさったものだ。それらの小説には必ずと言っていいほど、「壊す人」、「オシコメ」、「亀井銘助」といった人物が登場する、「谷間の村」に語り継がれる不思議な物語が引用される。
とはいうものの、それらはいずれも断片的なものであり、その物語の全体像が語られることはなかった。それをここで一気にいっときましょう、というのが『M/Tと森のフシギの物語』なわけだ。

ここでMはMatriarch、家母長とか女酋長で、TはTrickster、そう、神話にはトリックスターが欠かせないのだ。著者が幼少の頃から祖母より伝え聞いた(そして彼が正統な伝承者と見なされているらしい)という、村のはじまりと来歴にかかわるこの物語はまさに神話なわけで、細部にあれこれと不整合や矛盾を抱えつつも、奇想天外でなんとも言えない魅力を持っている。
他の大江作品に負けないぐらいに読みにくい文章に難儀しつつ、でもそういうところがまた良いのよな、と思いつつだらだらと読んでいたらたっぷり2週間ほどもかかってしまった。
ちょっと休憩したら、また古い小説を読んでみたいなと、なんだか懐かしく思ったことだった。