野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

儒家ってマジ腐っとるな

項羽と劉邦』ついに下巻を読み終わった。

項羽と劉邦(下)(新潮文庫)

項羽と劉邦(下)(新潮文庫)

面白かったけど、なんだか項羽劉邦も、訳わからんなあ。
エンタテインメント的には、百戦百勝の将軍・韓信とか、次から次へと奇策を弄する陳平とか、ああ言えばこういう、舌先三寸の腐れ儒者・酈食其(れきいき)とか、その辺が無闇に面白いのだけど。
だいたいが劉邦ってのは定見が無いから、周りがあれこれと献策してくるのを無節操に取り上げて、支離滅裂なことになるのだよな。それをフォローして回る蕭何なんか、たまったもんじゃなかろう。
斉を平定するように命じて韓信を派遣しておきながら、酈食其の口車に乗せられて和議に持ち込もうとする、なんてのがその最たるもので、いったんは酈食其が和議を成立させた斉に、そのまま韓信が攻め込むなんて無茶苦茶なことになるわけだ。
それで激怒した斉王に煮殺されてしまう酈食其も気の毒だが、でも考えてみたら韓信が斉の制圧に向かった後で、和議に持ち込むよう酈食其自身が劉邦を言いくるめたのだから、自業自得と言えなくもないか。
とはいえ、和議に方針を変えたんだったら、それちゃんと韓信に伝えてやれよ。やっぱひどいな劉邦

この少し前の春秋戦国時代というのが、いわゆる諸子百家というのが現れたころで、儒家もそのひとつ。この小説の中での儒家というのがまた、揃いも揃って胡散臭い連中ばかりで、劉邦もかなり儒家を嫌っているようだ。自分はゴロツキのくせに。いや、ゴロツキだからかな。
とにかく、儒家というのがあちこちで話をややこしくしているのは間違いない。前記の酈食其なんかがそうだし、常勝将軍ながらどこか職人っぽくて天下のこととかあまり考えてない韓信に、あれこれ吹き込む蒯通(かいとう)あたりも、なかなかロクでもないと思う。

ところでラストの「垓下の戦い」において、いわゆる「四面楚歌」状態となった項羽は最期を迎えるわけだが、ここであの有名な「垓下の歌」が出てくる。いや、有名って言ったって実はわたくしその名前を覚えてはいなかったのだけど、虞兮虞兮柰若何というフレーズ、虞や虞やなんぢをいかんせん、というのを、そういえば高校の漢文の授業でやったな!と思い出したのだった。そうか、あれはこういうシチュエーションで歌われたものだったのだな、と。
うん、そのような解説がついていたことも何となく記憶している。しかしどうもピンとこなかったというか。それが今回、こういう長い物語の流れの中で出てきて、ああそういう感じなんですね、と初めてちゃんと理解できたような。

休憩したら次は宮城谷版も読んでみようと思う。あちらは全4巻だ。心してかからねばな。