エマニュエル・トッドの名前さえ出しておけば、何も考えずにありがたがって手を出すお調子者が日本には一定数いる、と出版業界では思われているんじゃないだろうか。ここ5〜6年ぐらいの間に出てきた新書を見ていると、そんな気がする。
それはつまりわたくしのような人間をカモにしている。最新刊の『大分断』でもきっちり釣られてみた。
- 作者:エマニュエル・トッド
- 発売日: 2020/07/15
- メディア: Kindle版
それでも、講演録の寄せ集めや、下手すると他のいろんな人々とのインタビューやら雑誌記事との抱き合わせよりはマシかもしれない。
そもそも、トッドが本気出して書いた論文なんて難しくて読めないのだから(『シャルリとは誰か?』にはずいぶん難儀した)、そこは文句言うところじゃないけど。
今回は「教育」がテーマ、のように思ったが、必ずしもそうではないようだ。一冊を通して一貫したテーマがあるようで、実はそうでもなさそうだ。
そりゃそうだ、いろんなインタビューを一冊にまとめているのだから。
本来は階級間の移動を可能にするためのものだったはずの教育は、その機会が平等に与えられているわけではなく、階級を固定し、格差を広げるものになっている。そして、愚かで無責任なエリートを再生産し続けている。
というような話から始まっており、つまりこれがまずは一発カマすフックになっとるわけですな。
でもまあ前半部分というか4章ぐらいまでは一応教育の話かな。
教育の階層化によって民主主義が機能不全に陥っているのだ、と。機能不全だからトランプ大統領とかBrexitとかそういうことが起こるわけか。
一方で、民主主義とは「ある土地で、ある民衆が、お互いに理解できる言語で議論をするために生まれたもの」であり、だからその思想には「土地への所属ということと、外から来るものに対する嫌悪感が基盤にある」なんて指摘しており、うーむ確かにそう考えるといろいろ納得できなくもないな、と思ってみたり。
それでもやっぱり、いくらグローバリゼーション・ファティーグだなんだって言ったって、いくら何でも「トランプ大統領」はあんまりだと思うんだよな。
そりゃ日本だってあんなのとかこんなのだから人の事は言えないけど、アメリカの人たち今回はもうちょっと、ちゃんとお願いしますよほんと。