野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

お主も悪よのぉ

沈まぬ太陽』、いよいよ第三部の「会長室篇」へ。

御巣鷹山の墜落事故もあり、国民航空もいよいよヤバい、これはもう外部から誰か連れてきて経営再建せねば、との首相の意向によりあちこちに声をかけるが断られる。そりゃまあそうですよね、と思うが、あの手この手で口説き落とされ、大阪の繊維会社からやって来たのが国見会長と。
しかしこれ、たんなる企業再建と違って、半官半民の会社で政治と利権がぐじゅぐじゅに絡んで腐臭を放っているのを、できるだけことを荒立てず各方面の顔を立てつつ何とかせよ、という実にムシが良いというかミッションインポッシブルな話なわけで。
いくら国見会長が使命感に燃えて事に当たったところで、そもそも支援する約束だった首相は途中で梯子を外すし、そりゃまあうまくいくわけないでしょうよ。
そもそも国見会長、首相が送り込んだ龍崎一清なんていう怪しげな老人に「二度目の招集と思って」なんて丸め込まれるあたり、あまりにチョロいんじゃないの、と思わざるを得ない。この龍崎という人物、元大本営の参謀、ということはつまり先の大戦で無謀な作戦により日本を敗戦に導いた連中の残党だ。それが戦後40年にもわたってしれっと生き延び、首相のブレーンとして暗躍しているなんてのは、戦略家としては二流以下だが自己の保身には長けている輩、ぐらいに見ておくべきじゃないのか。
高潔で清廉な人格であるのは結構だが、龍崎みたいな胡散臭いのに「お国のために」とか言われてコロっと参るなんてのは、あまりにナイーヴにすぎやしませんか国見会長。
そんな国見会長の作った会長室に取り立てられ、またえらい事に巻き込まれたというか恩地君ってずっとそんなんばっかりなのね。ここでもまた、事あるごとに「アカ」呼ばわりで、何というかある種の人々の、共産主義フォビアみたいなものの根の深いこと。
そんなわけでこの「会長室篇」でも散々な目にあわされる恩地君。半沢直樹なら終盤で倍返し、十倍返しの展開になるところだが、国見会長も恩地君もやられっ放し。最後の最後に悪役たちの破滅が匂わされる程度で、これを余韻を持ったラストとして味わうか、残尿感に苛まれるか、は人によって分かれるところかもしれまへんな。

ところで時代劇などにおいては、権力を私物化する悪代官と、それに癒着して不当な利益を貪る悪徳商人、という組み合わせがお馴染みであるが、本作においてもそのまんまの構図が描かれており、なるほどああいう腐敗のエコシステムというのは江戸時代(あるいはもっと昔)から現代に至るまで脈々と受け継がれてきたのだなと感慨深くもある。
この悪徳商人といえば、両替商か廻船問屋と相場が決まったものらしい。両替商とはつまり銀行みたいなもので、それはつまり半沢直樹シリーズ、そして航空会社というのも言ってみれば空の廻船問屋、なるほどこれらの業種は現代に至るまで腐敗した権力と癒着した利権の温床であるのだなあ、と妙に感心してしまったのであった。