野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

青い表紙のアレ

最近ちょっと話題の「リーン・スタートアップ」を読んでみた。

リーン・スタートアップ  ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす


この本でいうところの「スタートアップ」というのは、通常よりも広い意味で、「とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織を指す言葉」で、「アントレプレナー」ていうのは、文字通りの起業家はもちろん、スタートアップで働く人は皆アントレプレナーである、とする。
ジェフリー・ムーアは「キャズム」で、自分たちがテクノロジーのライフサイクルにおいてどの段階にいるかを認識し、それに応じて正しい顧客をターゲットにすべきだ、と書いた。またクレイトン・クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」で、「破壊的イノベーション」を行うチームは、通常の製品開発を行っている社内の他の組織と隔離せよ、と説いた。だけど、具体的にどうすれば「死の谷」に落ちることなくキャズム越えをしてアーリー・アダプタをつかまえられるのか、とか破壊的イノベーションを行うチームはどのように運営すれば良いのか、なんてことまで彼らは教えてくれない。
そういうところに踏み込んだっていう点で、この本の試みはちょっと画期的かもしれない。
基本的な思想はわりとシンプルで、仮説構築と検証のサイクルをできるだけ早く回して、必要に応じて小回り良く軌道修正をして行きましょう、ってことだな。要するにできるだけ早くプロトタイプを作って顧客にデモを見せ、フィードバックをもらっては完成型に近づけていきましょう、ていうソフトウェアのアジャイル開発方法論と同じことで。用語としては、構築 ー 計測 ー 学習、とか価値仮説とか成長エンジンとかMVP(Minimum Viable Product)とか革新会計(イノベーション・アカウンティング)とかいろいろ目新しいけどね。最初は必要最小限と思われる機能だけを持った試作品(=MVP)を作って顧客からのフィードバックにより価値仮説を検証しよう、ていうのがアジャイル的だし、実際に著者の会社ではXPでソフトウェア開発をしてるらしいし。
で無駄を極力省いて最終的に顧客価値を産むものだけを作ろう、ていうあたりがリーン生産方式の思想からとってきてて、だから「リーン・スタートアップ」なんだけど、リーン生産方式のもとはトヨタ生産方式だもんな。日本のものづくりの強さの源泉であったトヨタ生産方式も、今やリーンとかなんとか言って体系化されたっていうことよね。ほんと欧米人っていうのはこういうのがうまいよなあ。
でも実際のところ一番難しいのは、構築-計測して「革新会計」で評価した後の「ピボットするか辛抱するか」の判断じゃないかな。これはさすがに、「これなら大丈夫!」っていうのは無いと思う。もちろん、この本でいうにあるような方法論によって、失敗はかなり減らせるだろうけど、それは決して成功を保証するものでは無いのだから。
何だかんだ言ってやっぱりスタートアップってのは大変だ、ってことですよ。