岸本佐知子さんの「気になる部分」を読んだ。
- 作者: 岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/05
- メディア: 新書
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やっぱりこの人はすごい。もう全編、すっかりわたくしのツボで、どこがどう素晴らしいのか説明することすらかなわない。この人は、どうしてこんなクールな文章でこれだけアホなことが書けるのだろう。それはおそらく、現実世界において、どうも上手く折り合いのつけられないことが多々あるらしい、ということと大いに関係がありそうだが。とにかく電車の中で読んでいて笑いをこらえきれなくなったこと数回。いや、アホなことだけにとどまらない。妄想ベースの岸本ワールドは、ときにその版図を広げ、もはやスタイリッシュと言っても良いぐらいに奇怪でバイオレントだったりする。そのグロテスクさに戦慄を覚えながらも、なおこの人の文章はわたくしを魅了してやまないんである。
あとがきに、こう書いてある。
さて翻訳という仕事をするようになり、それにともなって「何か書け」と言われる機会が出てきた。書くことなんで何もない。頭の中をひっかき回し、苦しまぎれに壺の蓋を開けてみたら、何十年にもわたって“なかったこと”にしてあったものがどろどろに醗酵し、得体の知れない匂いを発していた。そういうどろどろの醗酵物を集めたのが、この本である。うまいこと酒になってくれていればいいのだが、もしかしたらただの腐敗物かもしれず、もしあいにく後者だったら、心からお詫びするしかない。(p.206)
確かにちょっとクセがあって、好みが分かれるところかもしれない。だけどわたくしは幸いにして、その独特のアロマを楽しみ、気分よく酔っ払うことができたんである。
今度はぜひこの人の翻訳した小説(これがまた揃いも揃ってけったいなものばかりらしいが)も読んでみたいと思う次第である。