野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

クリスタルキングなんて通じるのか?

単行本で出たときからずっと気になっていて、文庫化を心待ちにしていた「船を編む」。やっと、出た。

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

辞書というものには、もうずいぶん長いこと世話になっているわけだが、こんな長大なドキュメントの編纂というのは、いったいどのような人々が、何を考えて作っているのだろう、とかねてから思っていたものだ。しかしそれが小説のネタになる、しかもそれがかなり面白いとは、さすが三浦しをん、恐るべしと言わざるを得ない。
言葉は、世の中にあるものに名前をつけるためにあるのではない。言葉が世界を作っている。世界は言葉でできているのだ。
この小説に登場する国語学者の松本先生は、「辞書は、言葉の海を渡る船だ」という。だから、彼らが作ろうとする辞書は「大渡海」と名付けられた。物語の主人公は、出版社に勤める馬締(まじめ)という男だ。名前のとおりまじめ、というか朴念仁だな。前述の松本先生も、また馬締の前任者である荒木も、みんなクレイジーだ。そりゃそうだろう、やっぱり辞書を作るなんていうのは普通の人間にはできないと思う。インテルの会長、アンドルー・グローブはOnly the Paranoid Surviveと言った。偏執狂だけが生き残るのだ。偉大な達成は、ちょっとイカれたやつらによって成されるのだよ。