野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

誰もが劉禅をボンクラ呼ばわりする

やっと出た。人気キャラがほぼいなくなってしまい、「孔明、大いに泣く」の第四部から3年。『泣き虫 弱虫 諸葛孔明』の第伍部が出た(って、文庫本の話で、単行本はとっくの昔に出てたけど)。

第四部を読んでからの三年間に、宮城谷昌光版の『三国志』を読み、WOWOWの中華ドラマ『虎嘯龍吟』(主役は司馬懿だけど)を観て、わたくしも少しは三国志の話の内容も理解もできたかと思う。
さて「奇策を乱発する変態軍師」諸葛亮孔明が主役の物語も、この第伍部をもっていよいよ終わりである。前半はいわゆる南征、そして後半が北伐、となっている。
魏を討つにあたっては、まず蜀の周辺の蛮族を鎮撫し安定させる必要がある、ということで行われた南征においては、敵将孟獲を捕らえて捕虜にしてはあえて解放し、七度目にはついに心服させた、という「七縦七擒」(本当は「七擒七縦」らしい。そりゃそうだ)という故事成語が知られている。相手にいわゆる学習性無力感を植え付けるという、いじめとかDVでよくある話で、確かにこれはなかなか変態じみた所業だ。一方では軍事リソースの浪費でもあるし、魏延あたりが嫌気をさすのも当然だろう。
ちなみに、実際には諸葛亮孟獲を生け捕りにしたのは七度ではなくもっと少なかった、とか、逆に諸葛亮孟獲に七度捕えられたのだ、とか諸説あるらしい。
その辺はまあどうでも良い話のような気もするが、宮城谷版『三国志』においてはずいぶんあっさりと片付けられていたこの南征の話は、本書においてはきっちり七回分、かなり詳細に描写されている。おそらく『三国志演義』はそのようになっているのだろう。しまいには野性の猛獣の軍団まで出てきて、なんだかジャングルの奥地で育った野生児ハリマオと闘うジョー、みたいな感じだ。ほとんど少年ジャンプ。
そして後半、諸葛亮はついに、どの辺が泣けるのかわたくしなどにはよくわからん「出師の表」を書き、いよいよ北伐に乗り出す。実を言うとここから先は先述の中華ドラマ『虎嘯龍吟』を観ていたこともあり、ストーリーもよくわかった。しかしながらドラマと違ってこちらはあんまり司馬懿のキャラが立ってないというのがちょっと残念だった。キャラといえば、英明で知られる魏の皇帝・曹叡は、件のドラマではマザコンサイコパス野郎として描かれており、司馬懿に地味なパワハラを仕掛けるというナイスな役回りだったな。司馬懿も、北方謙三版『三国志』では変態野郎という設定だったが、本作ではすでに諸葛亮が変態軍師なのだから、変態 vs 変態では収集がつかなくなるし、まあ致し方ないことなのだろう。
先にも書いた通り、この小説の主役は諸葛亮孔明であるから、第五次(第六次という説もあるらしい)北伐において、諸葛亮五丈原で病死した時点で物語はおわりだ。いや違うな、「これは孔明の罠だ」と司馬懿をビビらせて退却させるまで、か。
三国志』正史はここでは終わらない。宮城谷版『三国志』や中華ドラマでは、まだまだ面白い話が続くのだが、『泣き虫 弱虫 諸葛孔明』はここでおしまいだ。
このシリーズを初めて読んだのがもう11年前か。いやー長かった。でも面白かったなあ。