野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

Déconstruction d'objet

アリスター・コーバーンの「アジャイルプロジェクト管理」を読んだ。

アジャイルプロジェクト管理 (アジャイルソフトウェア開発シリーズ)

アジャイルプロジェクト管理 (アジャイルソフトウェア開発シリーズ)


感想を一言でいえば、「そんなに悪くない」と「微妙」の間ぐらいかと思う。いや、原著は「そんなに悪くない」と思う。しかし、翻訳がひどすぎる。
まず、翻訳の質そのものとは関係がないが、タイトルが「アジャイルプロジェクト管理」というのがどうもしっくり来ない。原題は "Surviving Object-Oriented Projects" だ。だったら「オブジェクト指向プロジェクト管理サバイバルガイド」ぐらいの方が実態をよく表していると思うのだがいかがか。まあ確かに、「アジャイルソフトウェア開発シリーズ」の一冊だからタイトルに「アジャイル」と入れたくなるのもわからんではない。そのほうが売り上げも良さそうだし。
本当のところは、「最近けっこう話題になってるオブジェクト指向技術ってやつをプロジェクトで採用するんなら、こういうところに気をつけないと失敗するぜ」という内容の本だと思う。「こうやればうまくいきまっせ」というのは書いてない。むしろ、「そんなうまい話はありえない」と警告している。まあそういうところは信用の置ける本だと思う。原著は。なぜ「オブジェクト指向」というところに焦点をあてているかというと、まあ当時はまだ一般的ではなかったからだろう。どうも「オブジェクト指向」=「アジャイル」のような書き方をしているように見えるのが気になるのだ。確かに、アジャイル的方法論を採用しているプロジェクトの多くは、オブジェクト指向技術を利用しているだろう。だけど「オブジェクト指向」というのはわりと純粋にテクノロジの話、分析・設計上のアプローチだし、「アジャイル」というのはもう少し包括的で、プロセスや管理、価値観まで含めた「思想」みたいなものだとわたくしは思う。だから、どうもその辺に違和感があってしかたない。
それにしても劣悪な翻訳だ。Amazonのレビューでも酷評されているが、まったく同意する。何箇所かに「指導者リング」という言葉が出てくるのだが一体どういう意味だ?前後の関係から原文を推測するに、ひょっとして "mentoring" のことじゃないだろうか。mentor=指導者、ring=リング、だからmentoring=指導者リング。こらっ!恥を知れ、恥を。それから、C++のキーワードをカタカナで書くな。protectedは「プロテクテッド」なんて書かんでよろしい。しかも、「コンストラクタ」は良いけど、「デコンストラクタ」って何よ。「デストラクタ」だろうがよ。技術書なんだから用語は正確に使おうぜ。生成したオブジェクトを脱構築したらメモリリークするがな。