うちにはやたらとグレン・グールドのCDがあるけど、そんなにグールド好きだったんかというと実はそうでもない。バッハは好きだけど。で「羊たちの沈黙」で聴いたゴルトベルク変奏曲が良かったのでCDを買ったのが最初だと思う。なんでやたらグールドのCDがあるかというと、単に安いからだ。2年ぐらい前からタワーレコードで、オリジナルアルバムの輸入盤が790円で売られている。それ以外の廉価盤も最近は出てきているし。まあそんなわけでグールドだからというよりやっぱりバッハはええなあという感じであれこれ買い、ついでにもともとあまり好きではなかったベートーヴェンを聴いてみると、これはグールドの演奏が良かった。あとブラームスも。
と考えてみると、やっぱりなんだかんだ言ってグールド好きなのかも。
さて世の中には色々とグレン・グールドに関する本(最近では映画も)が出ておるわけですが。「グレン・グールド 孤高のコンサート・ピアニスト」という本はひとひねりしている。グールドと言えば、ある時期から人前でのコンサートをやらなくなり、ひたすらレコードを作り込んだことで知られている。つまり、グールド=ライヴ演奏の否定、というイメージが一般的にあるのに、タイトルに「コンサート・ピアニスト」などと入っていて、あれ、それってどういうことよ?と思ってつい手に取ってしまうように仕組まれている。上手いな。
グレン・グールド 孤高のコンサート・ピアニスト (朝日新書)
- 作者: 中川右介
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/10/12
- メディア: 新書
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グールドがコンサートを引退したのは30歳の頃だ。だから、当然それまでにはライヴ演奏もやっていたし、録音も残っている。そして、天才ピアニストかつ変人というパブリックイメージも、その頃に作られたものだろう。この本は、そのグールドがまだコンサートをやっていた時期にフォーカスを当てているわけだ。そして、同じ時期にデビューをした、ほぼ同年代の、エルヴィス・プレスリーとジェームス・ディーン、さらには実在しないけど「ライ麦畑でつかまえて」(あるいは「キャッチャー・イン・ザ・ライ」)のホールデン・コールフィールド、という「怒れる若者たち」の一人としてグールドを論じている。当時、同時多発的に起こりつつあった動きとしてそのコンテキストを描き、また本人だけではなく同じような誰かとの比較、あるいは周辺にいた人物との関係性によって対象の人物像を浮かび上がらせる、というのは、著者の中川氏がよく採用する手法ですな。
グールドのエキセントリックなキャラクターというのは、多分にビジネス上のイメージ戦略として創りだされたというところがあるようだ。まあそれでもグールドが相当に変人であることには変わりないとは思うけど。
また近いうちに買いますよ、790円グールド。