世の中には、話をしているとすぐに枝葉末節に入り込み、いったいそれがどこに向かおうとしているのかさっぱりわからない、という人が時々いる。こういう人々にはけっこうイライラさせられるものだが、これをあえて、徹底的にやってみようというのがニコルソン・ベイカーの「中二階」という小説の試みだ。
- 作者: ニコルソンベイカー,Nicholson Baker,岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1997/10
- メディア: 新書
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とにかく、ありとあらゆることに対して、その細部へのこだわり様が尋常ではない。われわれが日常生活において、ふと頭に浮かんでは消えてゆく思考のフラグメントを捉え、とことん追究する。ストーリーとしては、オフィスで昼食の前に靴ひもを結び直そうとしたらそれが切れてしまったのでドラッグストアに買いに行く、というただそれだけの話だ。それが全部で200ページ弱の小説になっている。話はしばしば本筋と関係のないところに、脚注というかたちでどんどん入り込んで行く。この脚注というやつがまた常軌を逸しており、平気で2〜3ページに及ぶ。本文よりも脚注のボリュームの方が多いページも珍しくない。まったく、ここまでやられると、それはもう恐れ入りましたという他はなく、せっかくだからその枝葉末節の見事な枝ぶりをじっくりと楽しんでみよう、ということになるわけだ。それにしても岸本さんって、こんなけったいな小説ばっかり一体どこから見つけ出してくるんだろう。そこに感心しますよあたしは。