野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

編集者出てこい

やっと「昨日までの世界」読み終わった。

昨日までの世界(下)―文明の源流と人類の未来

昨日までの世界(下)―文明の源流と人類の未来

伝統的社会と現代の文明社会ではリスクへの向き合い方が違うらしい。本書で「建設的なパラノイア」と表現される態度は、しかし冷静にリスクを評価すれば、実はとても合理的なのだな。実は文明社会に生きる我々は、正しくリスクを評価できていないということだ。そういえば、アメリカでは銃で死ぬ人より自宅のプールで溺死する人数の方が多い、と「ヤバい経済学」に書かれていたな。
下巻では他に、宗教、言語、健康というビッグ・イシューを扱う。デンキウナギの進化になぞらえた宗教の進化の歴史についての説明はなかなか面白い。そう、宗教の機能も進化していっているのだ。
実に立派な内容なのだけど、実は翻訳がちょっとばかし残念。いや、文章そのものはこなれていて読みやすいのだけど、ちょっとした間違いが散見される。たとえばバイリンガルマルチリンガルの利点について語る部分で“アメリカ人夫婦の多くは、ひとつ以上の言語を知っている”(p.358)という記述があるのだけど、これは文脈上あきらかに「ひとつより多い」という意味だから、「ふたつ以上」ないしは「ひとつより多くの」(不自然な表現だけど)と書くべきだ。greater thanは「より大きい(多い)」であって「以上」ではないのだ。どうも以上/より多い/以下/未満の使い分けが理解できてないんじゃないだろうか。細かいことかも知れないが、このあたりの気遣いはけっこう重要だと思うのだけどな。
さらにもうひとつ仰天したのは、「訳者あとがき」での、筆者についての“その博識と隻眼をもって”(p.368)という記述だ。隻眼て… ひょっとして慧眼(ないしは炯眼)と言いたかったんじゃないかと思うんだが、どうでしょ。
実に惜しいですな。いや、本の内容はすごいですよ。