小佐田定雄、と言えば落語作家として有名だが、このひと実はもともと単なる落語ファンで、しかも「落語は古典に限る」と信じて疑わず、新作落語などは蛇蝎のごとく嫌っていたらしい。
そんなときに桂枝雀師匠は、「枝雀の会」という、新作落語の発表会を毎月開く、という試みを行っていた。この「枝雀の会」の一回目に行った小佐田氏、『戻り井戸』なる噺を聴いたらこれが意外と良い。おおこれなら新作もけっこうええもんやないか、と思ってこの会に通うのだが、だんだん「それはちょっと違うよな」という感じになってきた。そこで、「師匠がやりたいことって、ほんまはこんなこととちがいますか?」と書いて送ったのが、『幽霊の辻』。これを枝雀師匠がえらくお気に召され、それがきっかけで小佐田氏は落語作家になってしまった、と、それこそ落語みたいな本当の話があるそうだ。
そんな小佐田氏が見た枝雀師匠の姿を、精選48席の噺の解説とともに、ときには米朝、ざこば、南光などの師匠や兄弟弟子も登場するアネクドート、またときには高座での演出の分析とともに語る。それが「枝雀らくごの舞台裏」という本だ。
派手なアクションとけったいな顔でオーディエンスの腹筋をよじれさせ、また熱狂させて「爆笑王」としての名声ををほしいままにした枝雀師匠であるが、実際にはしゃべっている内容をよくよく聴くと、どこか哲学的で、けっこう理屈っぽい。この本を読むと、やっぱりな、と思う。高座を降りると、むちゃくちゃシャイな人で、でもものすごくストイックで、またアカデミックで凝り性で、という話が満載だ。とても面白い。枝雀ファン必読、でございましょう。