どうやら北方領土なんてとても戻ってきそうにないですね、という昨今。あらためて『国家の罠』を読み直した。
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/09/11
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
で、いま読んでもやっぱり面白い。北方領土交渉の経緯、霞ヶ関と永田町の力学、検察の取り調べにおける西村検事との心理戦、などなど。全体にシリアスでありながらも、どこかとぼけているというテイストもたまらない。拘置所の食事についてすいぶん詳細に書いていたり、「てんや」で天丼食べてビール飲んでいる時にソ連崩壊の連絡を受け、天丼とビールを残したまま外務省へ飛んでいく、なんていう記述に、残した天丼とビールに対する未練がたっぷりなのが感じられる。ハードな話ばかりのなかにこういうおとぼけがちょこちょこ挟み込まれているのが楽しい。
佐藤氏の罪状は「背任」と「偽計業務妨害」であるが、本書に書かれている内容を信じるならば、そんなことで起訴されるのかよおい、てなもんだ。しかし、そこがまさに国策捜査たる所以で、本来のターゲットは鈴木宗男だ。ではなぜ「国策捜査」として鈴木宗男を逮捕する必要があったのか?2000年あたりの小泉政権成立以降、日本が構造転換を遂げようとしている、と佐藤氏は公判で陳述している。構造転換とは、内政的には新自由主義へ、外交的にはナショナリズムの強化である。これを正当化しなければならない。そこで、
ポピュリズムを権力基盤とする小泉政権としても、「地方を大切にすると経済が弱体化する」とか「公平配分をやめて金持ちを優遇する傾斜配分に転換するのが国益だ」とは公言できない。しかし、鈴木宗男型の「腐敗・汚職政治と断絶する」というスローガンならば国民全体の拍手喝采を受け、腐敗・汚職を根絶した結果として、ハイエク型新自由主義、露骨な形での傾斜配分への路線転換ができる。
ということになるわけだ。なるほど。最初に読んだ当時はもひとつピンとこなかったが、今あらためて読んだらすとんと腑に落ちた。
それにしても、ハイエク型新自由主義と排外主義的ナショナリズム、これらはふたつ並んだ時点ですでに自家撞着を起こしているように見えるのだけど、そのあたりどう折り合いをつけるのか。というかこの「構造転換」のポイントから16年が経過した今、いろいろなものが破綻しかかっているように見えるのだけど…