野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

つまり「懶惰の説」の実践でありましょうか

『アースダイバー』の新作が出ているじゃござんせんか。さっそく読んでみたところ、今回は縄文期の地層がどうのこうの、という話ではなく(ちょっとだけあるけど)、「聖地」についての話だ。だから、『アースダイバー 東京の聖地』。

アースダイバー 東京の聖地

アースダイバー 東京の聖地

で「聖地」ってどこのことを言っているのかと思ったら、築地市場明治神宮だ。明治神宮はまだしも、築地市場なんて聖地にしちゃ生臭すぎやしませんか?と思うし、明治神宮だって実は、大正の初め頃に造られたもので、それホント大丈夫なの?とちょっと疑いたくなる。しかるに本書においては聖地を、
1. 結界のようなものが張りめぐらされ、外の世界からの影響を制限している。
2. 自然との通路をなしている。
3. 生きた人間が活動している。
という土地であると定義づけている。上記の基準に照らせば、築地市場明治神宮も、立派な聖地である、というわけだ。本書で取り上げられているこの二つの場所は、少し前に(いや今でも?)世間を騒がしていたことはご案内の通りである。いや正確には、世間を騒がしていたのは、これらの場所そのものではなくて、その周辺に跋扈する一群の人々であるけれども。有り体に言えば、築地市場豊洲移転問題、そして新国立競技場建設の問題。これらに対して、思想面での理論武装をして、ちょっと変わった視点から異議申し立てを行うという試みなわけですな。
本書の内容を上記の事案に対する意見表明として見たとき、その理論的な正当性について判断できるだけの見識を、残念ながらわたくしは持ち合わせていない。けれども、例えば築地市場の歴史と時の権力との関わり合い、明治神宮が現在の有り様になるまでの経緯など、大変楽しく読むことができた。わたくしにとっては、それで十分なんである。とりあえず美味い寿司が食べたいね。「食はこの世への愛の表明」(p.126)なんですよ。