野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

あちこちの家にペンキを塗っているらしいな

昨年の暮れに観た『アイリッシュマン』は大変な傑作だったと思うのだが、冒頭に「最近は自分でペンキ塗りをやることはなくなった」とかなんとかぶつぶつ言うセリフがあり、何のこっちゃと思っていた。で、あの映画の原作は、原題が”I heard you paint houses”だ。日本語の題は映画化に合わせて出版されたせいか『アイリッシュマン』だが、そもそもなんでそんなにペンキ塗りの話ばかりするのだ、と思ったら、「家のペンキ塗り」というのはマフィアの隠語で殺しを意味するそうで、なるほどそういうことだったか!といろんなことが一気に腑に落ちた。

全米トラック運転手組合の会長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)に関わる様々な裏の仕事をやっていたのがフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)で、そのまた黒幕がマフィアのラッセル・ブファリーノ(ジョー・ペシ)、てな設定で、どこかの老人ホームに入っていると思しきシーランが過去の仕事その他について回想しつつ語る、という体裁になっている。
その語りの内容がこの原作での、著者のチャールズ・ブラントによるインタビューに対するシーランの受け答えだ。
映画を観ている時には何だかよくわからなかったけども、この本でやっと理解できたエピソードがいくつかある。一方で、文字で読んだだけではあまりピンとこなかったかもしれない話も、先に映像で見ていたおかげでよりリアリティを感じることができた。
そしてフランク・シーランもまた、映画では何だかよくわからない乱暴者だったが、原作では彼の少年時代、また軍隊に入っていたころの話なども紹介されており、その人物像がより立体的に見えてきたような気がする。
それでもブファリーノとキューバの関係であるとか、ホッファの裁判であるとか、まだまだ理解し切れない部分はあるがとりあえず、ケネディ大統領は暗殺され、一方でホッファは裁判で有罪となり刑務所にブチこまれることになる、というあたりまでが上巻だ。あ、シーランも刑務所行きだな。
映画ではホッファが刑務所でやたらアイスクリーム食ってたけど、やっぱり原作でもそうなんだろうか。そのあたりについては下巻にて。