野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

酢味噌にマヨネーズはアリかもな

集英社文庫の4月の新刊を買った時に、内容もよく知らないままに勢いで『ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン』にも手を出してしまったのだけど、これって「シリーズ第13弾」だったのか!

そんな思いっきり途中から読んで大丈夫なのか?と思うが、まあ大抵こういうのは途中から読んでもそれなりに楽しめるように上手いこと書いてくれてるものだから。

東京の下町にある「東京バンドワゴン」という名の古書店(これがシリーズのタイトルの由来ですな)の、4世代に渡る大家族の物語。三代目店主である堀田勘一(86歳)の、9年前に他界した妻サチが語る。つまり成仏せずに地縛霊みたいになっとるわけですな。勘一の孫とかひ孫の一部にはサチが見えるらしい。

全体は冬春夏秋の4つのパートに分かれており、それぞれ別のエピソードになっている。その内容はといえば、人々が抱えるちょっとした悩み事であったりささやかなトラブルを東京バンドワゴンの人々、といっても主に勘一とその息子である我南人がその年の功だかお気楽なキャラクターだかによって解決する、ってな罪のない話だ。
古書店といえば連想するのはやはり『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズだが、こちらはあんなに殺伐としてない。もっとも家庭内の事情の複雑さというか登場人物のクセの強さで言えばこちらの方がよっぽどだと思うのだが、その辺は上手いことアク抜きをされて、ずいぶんと口当たりの良い仕上がりになっている。

すべてのエピソードにはこの堀田家の朝食シーンが含まれている。10人を超える家族が一堂に会して摂る食事はまさにカオスであり、毎回勘一の風変わりな食べ物の趣味(フレンチトーストに海苔の佃煮とか、納豆にピーナツバターとか)を交えつつ、どのセリフを誰が喋ったのかは一切説明されないにもかかわらず、それがちゃんとわかってしまうようなキャラクター設定になっている、というのがなかなかすごい。やはりシリーズとして13作も続く物語ともなると、コンテキストを作り出し読者の理解を助けるためのフォーマットができてくるものなのだな。
でもこれやっぱり、1作目も読んどいた方が良いような気がするなあ。