野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

騙される方が悪いってな

書店で『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』なんてのを見かけて、ちょっと気になったので手に取り、ぱらぱらと眺めてみたらなんだか面白そうだったので買ってみたのは昨年の秋ぐらいだったか。
しばらく寝かした後で着手し、気が向いた時にちびりちびりと読んだ。読み終わった時にはもう年末になっていた。

多くの人が世界史を、ひたすら用語や年代を暗記する科目だと思っているが、それは誤解である、と著者は言う。
高校の世界史の授業などで使われる教科書はたいてい、話があちこちに飛んでおり、地域や年代が目まぐるしく変わるような構成になっている。これが上記のような誤解を生む要因のひとつである、という。
わたくしも高校の時には世界史を選択していたのだが、確かに、なんでこんなに場所も時系列もあちこち行ったり来たりでわけわからん書き方をするのだ、と不審に思ったものだ。
そこでこの本では、構成を工夫し、最初に古代文明の発生、そこから大航海時代までをヨーロッパ、中東、インド、中国の4つの地域それぞれについて連続した流れを見ていくようになっている。世界が混ざり合った大航海時代以降は、欧米、中東・インド、中国というくくりで、冷戦時代までを概観する。
なるほど、確かにこうすればずいぶんと見通しがよくなるものだ。
また記述のしかたも、教科書にあるような無味乾燥な事実の羅列ではなく、歴史上の出来事の意味、後世や他国に与えた影響、などについてわりと詳しく解説されている。
こうして見ると、世界中どの国もほとんど例外なく、戦争と侵略、それに伴う繁栄と衰退(あるいは滅亡)を繰り返してきたのだ、ということがよくわかる。
そして、いま世界で起こっていることのあれこれがまた、元をただせば、というか過去に遡ると、様々な因縁やら確執やらが複雑に絡み合っているのだなあ、と思わされる。

というわけで、なかなか良くできているなと思うが、しかしどう考えても「一度読んだら絶対に忘れない」は言い過ぎだろう。こんなもん、一度読んだだけで憶えられるわけがない。ヨーロッパの歴史だけでも、複雑すぎて何度か行きつ戻りつしたし、それでも数日経ったらもうあちこち忘れている。何もわたくしの加齢だけが原因ではないはずだ。
だいたい、いわゆるところの歴史小説などで数巻(あるいは十数巻)を費やすような物語も、本書ではせいぜい長くて数ページの記述しかないわけで、そもそも無理があるわけだ。
まあ「一度読んだら絶対に忘れない」ってな煽り文句を真に受ける方がどうかしとる、ということかもしれまへんな。