単行本で出た時にはまったく気にも留めていなかった、というか存在に気付いていなかった『短くて恐ろしいフィルの時代』が、最近になって文庫化されたようだ。
ほとんど荒唐無稽と言ってよい設定なのに、妙に既視感のあるストーリー。これは今まさに我々が目にしている状況を描いた寓話なのかと思うと、実はもう10年も前に書かれた作品であると。何ということか。『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』の冒頭でカール・マルクスは「すべての偉大な世界史的事実と世界史的人物はいわば二度現れる。一度は偉大な悲劇として、もう一度はみじめな笑劇として」と書いた。なるほどあれは、一度や二度ならず何度も繰り返されてきて、「みじめな笑劇」どころか愚かしい茶番になり果ててしまった何か、なのかもしれない。
登場するキャラクターたちの造形は奇想天外で、そこには何らかのメタファーがあるのだろうかと考えこんでしまう。おそらくそんなものは無いのだろう。だから余計に、妙なリアリティを感じてしまう。
いま目の前でリアルタイムに展開しているアレは、この小説に負けないぐらいのスラップスティックと感じられる。せめて「短い時代」で終わってほしいと切に願う。