野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

象をナメたらあかん

東日本大震災による福島第一原発の事故は、ありとあらゆる方面に甚大な影響を及ぼした。
それらのいくつかを取り上げた短編集が『象は忘れない』だ。

このタイトル、オリジナルはアガサ・クリスティの小説("Elephants Can Remember")だったのだな。知らんかった。
"An elephant never forgets"という英語の諺(象は恨みを忘れず、必ず報復する、という意味)に由来するのだそうで。
原発事故の影響というのは、何百年、何千年という期間を超えて残り続けるものもあるわけで、そりゃ直接の関係者(それぞれの短編の主役たち)にとっては忘れられるわけがないよな、と思う。
一方で、直接の関係者でないと、すでに忘れてしまったように見える人たちというのも少なからずいる。
それどころか、あんた当事者ちゃうんか、という奴らですら、すでに忘れてしまっている、あるいは、忘れたふりをしているのか知らんが、「そんな事は起こらなかった」てな顔をしていたりする。
だから、「忘れんなよお前ら」ということなのだ。

いずれの短編にも、どことなくホラーな風味が漂う。
何なんだろうなこの雰囲気、と思ったら、いずれも能の台本『謡曲集』の物語を基に再構成したものだとか。なるほどそういうことか。元の物語は、やたら死霊とか怪奇現象とかが出てくるものばかり(「俊寛」はちょっと違うけど)。
とはいえこれらのストーリーには幽霊も超常現象もほとんど出てこない。なのに拭いきれないホラーなテイスト、というのがなかなか面白いところだ。
特に「卒塔婆小町」のそこはかとない怖さと後味の悪さは絶品だと思う。

ところで、何で象なんだ?と思っていろいろ調べていたら面白いものを見つけた。
Alex Gendler: Why elephants never forget | TED Talk Subtitles and Transcript | TED
象ってすごいのな。こいつあ驚いた。