野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

最近は「いい箱つくろう」なんですって

今年は久しぶりにNHK大河ドラマを観ている。『新選組!』以来だから18年ぶりだ。
小四郎の顔芸、政子の雄弁で白目がちな巨眼、佐殿のクズ野郎っぷり全開な芝居を満喫しているわけだが、よく考えてみると、鎌倉幕府の成り立ちであるとか、その後の北条氏による執権政治であるとかについて、ほとんど何も知らないということに気付いた。
いや、中学の歴史の授業で習っているはずだから、知らんはずはないのだが、まあそんな昔のことを覚えているわけがなかろう。
せいぜい「いいくにつくろう鎌倉幕府」ってなぐらいなものだが、最近ではそれも1192年ではないという説まで出てき始めているようで、そうするといよいよ何も知らない、ということになってしまうではないか。
それはちょっと具合が悪い。できればあの辺を題材にした小説なんぞを読んでおいた方が、これからの話を理解する助けになるだろう。
と思って書店へ行ってみると、やはり『鎌倉殿の13人』特集ということで、多数の小説やら新書やらがフィーチャーされている。
その中で目に付いたのが『炎環』だ。400ページで上中下巻、などというボリュームではないのも手軽でありがたい。

本書は長めの短編4本で構成されている。連作、というわけではないが、かといってまったく無関係な話でもない。
頼朝の異母弟である全成、もともと平氏側だったはずがいつのまにか源氏側で重用されている梶原景時北条政子の妹にして全成の妻・保子、そして後に鎌倉幕府の実権を握る北条義時、がそれぞれの主役になっている。前後に連なる短編どうしでは、少しずつ時間がずれながらも、ほぼ同じ出来事が共有されているのだが、それらは短編ごとに、主役によって異なるパースペクティブで描かれる。これが、後ろの方に行くほど、様々な事の真相が徐々に明らかになってくる、という謎解きのような効果になっている。
そしていずれもキャラクターの存在感があり、特に頼朝の陰湿なくせに調子が良いところ(「お前だけが頼りじゃ」と誰にでも言うとか)なんかが、もうドラマのそのまんまという感じでたまらない。頼朝の意向を忖度して手を汚す景時なんかを見ると、こういうの昔からあったんですね、と思うし、やたらお喋りでちょっと足りない感じと思わせながら、しれっと情報戦による謀略を仕掛けたりして油断のならない保子にはインテリジェンスの重要性を感じさせられる。
300ページを少し超えるほどのコンパクトさながら、実に濃厚な物語に仕上がっているという感じ。面白かった。
同じ作者の長編『北条政子』もいずれ読んでみなければなりませんね。