野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

全部乗せ、ってやつですかね

Amazonのおすすめにしたがっていくつかサンプルをダウンロードした中に『いま世界の哲学者が考えていること』というのがあって、ちょっと読んでみた感じだとなかなか面白そうだったので購入した。

いま世界の哲学者が考えていること

いま世界の哲学者が考えていること

科学技術が高度に発達した現代こそ、哲学が必要である、という。そりゃそうだろうな、と思う。いろんなことがドラスティックに変わるとき、「〇〇とは何か」という問いかけ、物事の本質をつかむこと、というのは死活的に重要だろう。IT革命(ちょっと古いか)、脳科学人工知能バイオテクノロジー、資本主義とグローバリゼーション、地球環境、そして宗教。哲学のカバレージ、というか適用範囲はとてつもなく広い。
いや、これらの諸々が抱えているビッグイシューに対して哲学が直接の答えをあたえてくれるわけではない。哲学そのものの対象はもっと抽象的だ。哲学的なアプローチというか技法、みたいなものをうまく使う、という感じの方が正しいと思う。だからそういう意味で、本書のタイトルはちょっとばかしミスリーディングじゃないかな、と思う。実にたくさんの学者の名前が出てくるけれども、その中でいわゆる「哲学者」というのはほとんどいない、とは言わないまでも少数派だ。『いま世界の諸問題に対して、各分野の第一人者たちは哲学者が考えていることや手法をどのように活用しているか』ぐらいが適当じゃないだろうか。
ここで哲学者とは何か?などという問いを立てることに意味があるとはあまり思わないが、すくなくともジョゼフ・シュンペーターリチャード・ドーキンスエマニュエル・トッドもトマ・ピケティもアマルティア・センアラン・チューリングも哲学者とはいえないだろう。いま挙げたように、節操がないとも言えるほどの各方面のビッグネームが次から次へとあらわれる。つまりそれだけ議論の対象がやたらと広いのだ。だからまあ、その内容は悪くいえば総花的で、全体的にちょっとばかし浅い… いや別に非難するつもりはない。仕方がない話だ。「哲学なんて何の役に立つんだ?」という疑問に対して、実はこれだけ広い分野の諸問題に適用できるんだぜ、というのが、いわば本書のキーメッセージであるだろうから。それでも何だか消化不良というか、ちょっと物足りないなあ、という向きには、親切なことにちゃんとそれぞれの章でブックガイドが用意されているのだし。Kindleで読んだら字が小さすぎて俺様のようなおっさんには読めなかった、というのはまあご愛嬌だ。