野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

用事がないところへは出かけないのが武道家の心得らしいですが

レヴィ=ストロース老師は「私は旅や冒険が嫌いだ」と「悲しき熱帯」の冒頭でカマした。
わたくしも、嫌いとは言わないまでも旅について特別に興味を持ってはいなかった。
「深夜特急」を読むまでは。
実際のところあの本を読んで、すぐさまバックパックを担いで格安航空券を入手し、香港へと旅立って行ったかというとそんなことはない。まあちょっと歳を取りすぎていたのだろう。いつ頃だったかは判然としないが、確か30代の前半ぐらいじゃなかったかと思う。それでも、それまでまったく興味の無かった海外旅行について、ちょっと行ってみたいなと思い始めたものだ。
しかし世の中には、「深夜特急」を読んで本当に香港やらインドやらロンドンへ行ってしまった若者たちが跡を絶たない。それほどに影響力のある本なのだ。
その「深夜特急」のメイキングとも言える「旅する力」が新潮文庫になった。

旅する力―深夜特急ノート (新潮文庫)

旅する力―深夜特急ノート (新潮文庫)


「深夜特急」が書かれることになった経緯、そしてあの一年間の旅行について、「深夜特急」とはまた違った視点で振り返る、旅についてのエッセイ集だ。
葡萄の果汁を発酵させるとワインになる。その葡萄の搾りかすを発酵させるとグラッパができる。言ってみれば搾りかすのようなネタを集めたということになるのだろうが、これがまたなんとも魅力的な食後酒になったものだ。