この前の旅行に、飛行機の中で読むための本として村上春樹の「遠い太鼓」を持っていった。一冊だけ選ぶとするなら、まあ適度な大きさだし、ヨーロッパ滞在記というその内容が結構合ってるんじゃないかと思ったのだ。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/04/05
- メディア: 文庫
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まだ日本がバブルで浮かれ始める前の1980年代前半、村上さんがヨーロッパ各地、おもにギリシャとイタリアに滞在した時の記録だ。当然インターネットなんて無いし、通貨はドラクマにリラ、そんな時代の話だ。もう今までに何度も読んでいるのだけど、いつ読んでも面白い。スペッツェス島の「ゾルバ系ギリシャ人」なおっさんたちの素朴で元気な様子、特にレジデンスの管理人ヴァンゲリスの話は微笑ましいし、イタリア人のひどさを力説するイタリア人ウビさんは相当に変わってるし、運転手と車掌が運転中にワインを飲んでいたのを乗客に見咎められたのがどういうわけか乗客全員を巻き込んでの酒盛りになってしまう「酒盛りバス101号」は抱腹絶倒だし、トスカーナの農家にワインを買いに行く話は何とも言えず素敵だ。
数多くの名言もある。
僕の見聞したかぎりではギリシャ人というのは比較的混乱しやすいタイプの人種である。なんとかうまく物事をこなそうという意志はあるのだけれど、少し事態が込み入ってくると収拾がつかなくなって混乱し、ある場合には怒り始める。またある場合には落ち込んでしまう。こういう点ではイタリア人と正反対である。イタリア人は始めから物事をうまく処理しようという意志が希薄なので、それがうまくいかなくても殆ど混乱しない。どちらのやり方を好むかというのはもう完全に趣味の問題である。(p.290)
飲み食いのことになるとイタリア人は実に熱心かつ真摯である(p.480)
ある意味ではイタリア人というのはすごく現実的な考え方をする国民なのである。つまりイタリア人は公共サービスというものに対してまったくといってくらい幻想を抱いてはいない。そんなものをあてにするくらいなら、もっと別の方策を考える。個人的なコネクションや家族を大事にする。猛烈に脱税する。脱税とサッカーはイタリア人にとって最も大事なアクティビティーであると言ってもいいだろう。(p.500)
ローマというのはイタリアの中にあってもかなり特殊な町である。ここではどれだけ注意しても、どれだけ常識を働かせても、それを超えた災難というのがちゃんとふりかかってくるのだ。(p.506)
などなど。まあ、挙げていけばきりがない。
それにしても、ギリシャにイタリアといえば、今まさにヨーロッパの経済危機を惹き起こそうとしている震源地じゃないか。あらためてこの本を読み直してみれば、その予兆というのはすでにみて取れるのだ。そりゃあんだけみんなお気楽に好き放題やってりゃ、いずれそんなの破綻するわな、というのがまあ率直な感想だが。
最後にウビさんの名言を引用したい。
なにしろローマって二千年がかりで腐敗し続けているような都市だからね。腐敗にも年季が入ってるんだ(p.257)
いやはや、なんとも大変なところですな。