野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ケンプとグールド

先日読んだほむらさんの「にょにょっ記」に、「グレン・グールド」というのがあった。

友達の家に遊びに行く。
「原稿書くとき何聴いてるの」と訊かれたので、「音楽あんまりかけないけど、グレン・グールドとか」と応えると、「いいよね、グールド。そんなにピアノ上手くないけど」と云われて、びっくりする。
グレン・グールドって、そんなにピアノ上手くないのか。
(pp.24-25)

グレン・グールドってそんなにピアノ上手くないのか。
まあかなりエキセントリックな人物だったらしいけども。鼻唄とか。
どういうわけか、一年以上前に買ったベートーヴェンのピアノソナタ集、いわゆる790円グールドのひとつだが、これを最近よく聴いている。ベートーヴェンも意外と良い。
実をいうと、もっと何年も前に、同じベートーヴェンのピアノソナタ集でヴィルヘルム・ケンプの演奏によるCDを知人が貸してくれて、とりあえずiTunesにキャプチャして1、2回ほど聴き、「ふーん」といってそれっきりにしていたものがある。
これまた最近読んだ「世界最高のピアニスト」でケンプが「ヘタと言われ続けたピアニスト」として取り上げられていて、そういやケンプのベートーベンもあったよな、と思い出してグールドと聴き比べてみたわけだ。
なんじゃこら。
いや、ケンプが下手だとは思いませんよあたしは。でも、なんというか… 一言でいうともっさいなぁ、ていう感じ。ああごめんなさいケンプファンのみなさん。
たとえば「熱情」の第三楽章、グールドがドラマチックかつ流麗に、疾走感あふれる演奏を聴かせてくれるわけだが。ケンプはなんだか、どたどたどた、という感じで、しかも強弱のメリハリがあまり無い、というかずっと力が入りっぱなしで、聴いててなんだか疲れる。上手い・下手というより、解釈の違いなのだろうと思うけど。
という感想を持ったところで気づいたのだけど、ひょっとして、ケンプの方がベートーヴェンの演奏としては、「正統派」なんじゃないだろうか。あたしはほとんどベートーヴェンを聴いたことがないから、グールドの演奏が刷り込まれてしまっているけど。
ということで色々と調べてみると、うんやっぱりそういうことみたい。ケンプの演奏は、「これこそベートーヴェン」ということなんだなあ。あたしは異端と言われるグールドの方が好きだけどね。

ケンプの演奏を聴いていると、グールドとのあまりの違いに笑えてくる。でも、「悲愴」の第二楽章なんかは、あの朴訥な感じになんとなくほっとすることもある。まあ、もっさいとかなんとか言いながらも、たまに聴いてみたりしてるわけですよ。ケンプ恐るべし。