東日本大震災というのは、まさに未曾有の大災害というやつだ。日頃われわれがごく当たり前の事と思っている、衣食住に関するセキュリティは、被災地においては徹底的に損なわれた。そこで多くの人々がこれを確保するために昼夜を分かたず奔走していたんである。
「遺体」というのは、まさにそんな人々に関するドキュメンタリーだ。
- 作者: 石井光太
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/10
- メディア: 単行本
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と言っても、彼らはメシを確保するために苦労していたわけではない(いやまあそれも苦労していただろうけど)。地震によって引き起こされた津波により、膨大な数の人々が亡くなった。つまり、短期間に非常に多くの「遺体」が生じた、ということである。何事も、量が極端に多くなってあるレベルを超えると、通常とは違うものの見方、取り扱い方が必要となってくるものだ。
そして、「遺体」というものに対しては、我々は特別な配慮をする。これがまさに人間と動物を分ける点であるという。動物にとっては、ある個体がいったん死んでしまえばそれは他の個体にとっては単なる物体に過ぎない。死体を特別扱いするのは人間だけなのだ。
さてこの特別な配慮を必要とする「遺体」が、通常では想定できないレベルの数あったとしたらどうなるのか。まさに極限状況だ。そんな極限状況においてもなお、「人間」であろうとし、「遺体」に最大限の敬意を払いながら、それでもタフな現実の諸問題に対処していく。そんな人々の、それぞれの立場での物語はそりゃもう読み応えがあるのだ。