野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

悩める尼御台

大河ドラマの『鎌倉殿の13人』もいよいよ、という感じになってきて、以前に読んだ『炎環』も一部を読み返したりしていたのだが、やはりここはひとつ『北条政子』の方もいっとかなあかんかな、と思ってついに手を出した。

えらいもので、ドラマで観た後で『炎環』を読み直すと、物語のなかで起こっている様々な出来事や事件について知っているため、ものすごくスムーズに読める。『北条政子』は今回初めて読むのだが、先にドラマを観ているため、ストーリーがすっと頭に入ってくる。
一方で、読みながら思い浮かべる登場人物のヴィジュアルが、ドラマの役者で固定されてしまうのが難儀といえば難儀であるが、ドラマでのキャラクター造形と小説内でのそれのギャップを味わうのもまた一興。
『炎環』、『北条政子』ともに鎌倉が舞台で時代背景も、そして登場人物も概ね同じであるから、同じ話が出てくるのかと思ったら、取り上げられているエピソードは両者でほとんどかぶっていない、というのも面白い。
いずれも主役となる誰かの視点で、様々な事件が語られる。この本ではもちろん北条政子が主役だ。『炎環』に所収の四作ではいずれも、割と乾いたテイストで、ちょっとハードボイルド風味だったのに対して、本作ではどこかセクシュアルな腥さが感じられる。その辺り多少鼻につく感じが無くもないが、まあそういうのも悪くはなかろう。それより、激しい感情に任せて行動してしまいやたらと自己嫌悪に陥る政子の葛藤する様子は、これって今で言うところの解離性同一性なんじゃないのかと思うのだが、どうなんだろう。って別にどっちでも良い、というか(史実に基づいた)フィクションなのだけど。