野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

そら河童はないと思うで

単行本で出た時から「これは読まねば」と手ぐすね引いて待ち構えていた『あの家に暮らす四人の女』が文庫になった。意外に早かったな。

「あの家」とは、東京都杉並区の郊外にある、古い洋館。元は資産家であったのが没落した牧田家が所有している。そして「四人の女」とは、若い頃に婿を追い出した牧田鶴代、その娘で刺繍教室で生計を立てている佐知、妙な経緯で刺繍教室の生徒になってしまった雪乃、さらに雪乃の職場の後輩である多恵美。となるとどうしても、鶴子、幸子、雪子、妙子という薪岡家の四人姉妹、つまり『細雪』を連想するわけで、作中でも雪乃に「わたしたち細雪の四人姉妹と同じ名前なんだよ」と言わせている。なんでも谷崎潤一郎メモリアルイヤー(生誕130年だか没後50年だか)記念企画の作品であったらしい。
実際には『細雪』のような雅な話ではない。が、そこはかとなく感じる退廃的なテイストには、どこか通じるものがあるかもしれない。牧田家の歴史を長年にわたって見守ってきたカラスの善福丸であるとか、鶴代の夫(=佐知の父親)の亡霊に登場させ、あれこれ語らせるという強引な手法には些か驚かされたが、そういう人ならぬものの視座による観察を導入することによって、そう長くないタイムフレームの中で滅びてゆくしかない牧田家の人々(といっても二人だけど)の諦念と悪あがきの「ひと臭さ」を際立たせ、一方でデカダンスを醸し出してる、てなことではなかろうか。いや、知らんけど。
細雪』と同様に、古びた洋館に暮らす女たちは花見に行く。それもけっこう気合を入れて弁当など用意して。しかし持って行く酒はビールと白ワインのみだ。そこにロゼなんかも入れてみるとけっこう良いんじゃないかな、というのがわたくしからのアドバイスだ。まあ参考までに聞いておいてくれたまえ。