野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

また夢になるといけねえ

クラシック音楽というのは、同じ曲でも演奏者によってずいぶんと違って聴こえる。したがって、誰が作曲した何という曲であるか、ということに加えて演奏者は誰か、ということが非常に重要なファクターとなる。これはまさに薀蓄の温床であり、場合によっては論争の火種となる。古典落語においても事情は同じだ。

こっちへお入り (祥伝社文庫)

こっちへお入り (祥伝社文庫)


書店で偶然見かけて「こっちへお入り」なる小説を買った。わかる人にはわかるだろうが、このフレーズは落語のクリシェである。そう、この本は落語の小説だ。これといって取り柄のない30過ぎのOLが、友人が通う落語教室の発表会を義理で聞きに行き、そこで落語の面白さに目覚めてしまい、自分でも落語を始める… とまあそんな話なわけだ。
落語における人間理解とは、みたいなものが実はテーマだ。古典落語の名作・名演の紹介をあれこれ取り混ぜつつ話は進んで行く。なかなか面白い。そしてこの中で、同じ噺が演者によってどれほど違ったものになっているかが語られる。この作者は相当なマニアだな。残念ながら東京の噺家による人情噺がメインなので、なかなかピンとこないところはあるのだが、それでも面白く読める。まーちょっと俺様も、「昭和の名人」あたりでそっち方面にも手を出してみるかな。