野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

それにしてもなんでプジョーなん?

発売当時ずいぶん話題になっていたようだが、けっこうなボリュームにビビってしまい、なかなか手を出せずにいた『サピエンス全史』、ついに意を決して読むことにした。
タイトルの通り、ホモ・サピエンスの歴史だ。ホモ・サピエンスって要するに現生人類のことだけど、今さら何を語るのだ。
と思ったけど、これがなかなか。

サピエンスの歴史における転機は何度かあった。特に、初期においては農業革命、そして認知革命であると。農業革命ってのはわかる。それまで狩猟と採集に頼っていた食料を、固定的な土地での特定の種の栽培、あるいは飼育により安定的に確保できるようになった、てな話だ。しかし実は、農耕民よりも狩猟採集民の方がずっと健康的で豊かな生活を送っていた、なんて指摘されると、ホンマでっかと思わずにいられないが、でも確かにそう言われるとそうなのかもしれない… と思えてきたり。人類の歴史においては、後の方が「進化」していて、前よりも優れている、と考えてしまうけれども、実はそうでもない。なんてことも書いてある。一万年前のサピエンスは2019年に比べると知能が劣っているのかというと決してそんなことはない。一万年前のサピエンスは、偏微分方程式は解けないしラプラス変換もできないかもしれないけど、"直近の環境について、幅広く、深く、多様な知識を持っていた"。火打ち石で槍の穂先を作る、なんてことは我々にはできない。つまり、知能とか知識とかいうものの、ベクトルの違いということなんだろうな。レヴィ=ストロースなんかが言ってたのも、たぶんそういうことだ。
そして認知革命。何だそれ?と思うが、つまり架空の物語=虚構を作る能力だ。いや、物語を作るだけでなく、それを集団で共有する、ということ。その神話だったり、国家だったり、あるいは貨幣だったり。特に貨幣ってのが、そりゃもー。というあたりが本作の名著たる所以なんじゃないですか。知らんけど。まーとにかく、揺るぎないと信じて疑うことのなかった自分の足下とか、いろんな価値観みたいなものを容赦なく揺さぶって半壊状態にするっていう、いやかなりすごいですよこの本。