カミュの『ペスト』が最近売れており、品切れになっている書店もあるのだとか。
時流に乗ってわたくしも読んでみることにした。
こういうのは何となく紙の本で読みたいところだけど(理由はよくわからない)、Kindleにて。
家にいても購入できるし、マスクやトイレットペーパーと違って、決して品切れにならないのがまた、電子書籍の良いところだ。
医師のリウーが、ある日ネズミの死体に蹴つまずく、という冒頭のシーンからすでに、何とも不気味かつ不穏な展開を予想させる。
そして、ペストが流行し始めたあたりでの登場人物の言動は、想定もしない災厄における正常性バイアスというのは、認知をこんなふうに歪ませるのだというショーケースになっている。
いよいよペストの流行が猖獗を極め、オランの街が封鎖されてからの様子は、今の欧米で起こっていることであり、またそう遠くない将来に日本で体験することになる可能性が高いと思うと、何とも憂鬱にさせられる。
一方で、生身の人間として悩んだり迷ったりするリウーらの、プロフェッショナリズムに徹した言動には勇気付けられる。そして、やっとペスト禍が終息したあとのオラン市民の様子を、ああ我々もこんなふうに安心して暮らせるようになるのはいつのことだろう、と羨ましく思ったり。
文章のテイストには、どこか過剰なものが感じられ、なんとなく既視感を覚えた。そうだこれはレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』だ。どの辺が似ているのだ、と問い詰められても困るが、とにかくあのくだくだしくもクールな文章を連想したのだった。
とにかく今は、頭を低くして、未曾有の災厄が通り過ぎるのをじっと待つしかないのだろうな、と思う。何とも気が滅入る話じゃないか。