野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

冷凍の魚を運ぶんならクーラーボックスに入れようぜ

アイリッシュマン』の下巻を読み終わった。

ホッファはやはり、刑務所の中で好んでアイスクリームを食べていたようだ。映画の通りだな。いや、映画が原作の通りに作られていた、というべきか。

長年の間ジミー・ホッファは「失踪した」ことになっており、その「ジミー・ホッファ失踪事件」は迷宮入りしていたのだそうだ。
そんなもんフランク・シーランが殺ったなんての明らかやんけ、と思ってしまうのはこの本を読んだ後だからであって、実際には多くの謎に包まれた事件であったわけだな。
フランク・シーランはその事件の容疑者の一人であったわけだが、とにかく気の遠くなるような長い時間をかけてインタビューをし、最終的には本人からの告白という形で事件に関する真相を引き出した、というのがこの本のすごいところなわけだ。
そして、米国で本書のハードカバー版が出た後に明らかになった事実というのもいくつかあり、それがこの下巻の後半で語られる。結構なボリュームだ。
ジミー・ホッファ失踪事件だけでなく、ケネディ大統領暗殺事件に関わる諸々まで話が及び、何だか訳わからないながらも、おいおいマジかよ、てなことになっている。

ホッファを殺害する前に、元の待ち合わせ場所になっていたレストランに、ホッファの義理の息子チャッキー・オブライエンの運転でシーランとサリー・バグズ(話し合いをすることになっていたトニー・プロの手下)が同乗してホッファを迎えに行く。その車の後部座席の床が濡れており、なんでそんなことになっているのだ?とサリーが訊くと、冷凍の魚を運んだからだ、とチャッキーが答えたのに対して「魚、どうしてそんなものが好きなんだ?」と突っ込まれる。これは原作にもあるのだけど、映画ではこれをさらに膨らませて、魚の名前をしつこく問い詰めたりなんやかんやで、異様な緊迫感がありながらどこか滑稽な空気が漂う、印象的なシーンだったのを覚えている。
こんなふうに、映画で観たシーンと原作とを比べながら読むのも、なかなか楽しかった。

ところで本書に、シーランがチームスターズの326支部長だった時に、当日民主党の郡議会議員だったジョー・バイデンが組合員に対してスピーチをした、てなエピソードが紹介されている。シーランいわく、バイデンは「実のところ、大した弁士」で、「労働組合支持の姿勢を熱く語」り、それ以来シーランはバイデン支持派だったそうだ。
上院議員選挙で、バイデンの対立候補がバイデンに不利な内容の折り込み広告を新聞に入れた時、選挙が終わるまでの間ピケを張ってその新聞が配達されないようにした。その作戦のおかげでバイデンは上院議員に当選できた、と言われているのだとか。ひえー。そんなんアリなんか。
アメリカの労働組合って、なかなかすごいのな。と改めて感じたことだった。