野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

統計的にはどうかしらんが感覚的には有意な差があります

むやみに数式をひねくり回したところで統計学を理解できるわけではない
もうちょっとこう、理論的なところをちゃんと説明してくれている本はないもんかな、ということで、書店で見つけたのが『松原望 統計学』だ。

著者名をそのままタイトルの一部にするとは、なかなかのもんだなと思いつつ、ぱらぱらと読んでみると、ちょっと格調高い感じの文章で悪くない。ほほう、と読み進めると、「カードの色を言い当てられる能力があると主張している人がおり、その主張が正しいかどうか確認するために20枚のカードを用意して赤か黒かを当てさせたところ14回正解した。これは統計学的にそのような能力があると判断してよいか」というようなことを解説しているくだりがある。ここで20回中14回正解する確率を計算し、

20回中14回当たることは、その能力があると考えれば限りあり得ないことである。

と書いてあった。
は?どういうことですか?と5回ほどじっくり読み直してみたが、どうしても意味がわからない。
なんだかひどい誤植だなおい、と思いつつ読み進めると今度は二項分布の説明があるのだが、これがまたどうもよくわからない。なぜ理解できないのだろうか、とよく見ると、組み合わせの計算が間違っている(_{4}C_{1}は1ではなくて4ですね)。
うむむ、と唸りつつさらに正規分布の解説を読むと、Excelで生成させた正規乱数をいろいろ加工しているのだが、平均が0.046485184で分散が1.670303701であれば、それはどう考えてもN(1, 1)ではなくてN(0, 1)なわけで、表にまとめられた3種類の正規乱数それぞれの呼び名と記号は見事に全部間違っている。
さすがにたまりかねて「松原望 統計学 正誤表」でググったら一応は正誤表が見つかった。が、少しばかり読んだだけで見つかったこれらの間違いは、そこではカバーされていない。検索結果にはAmazonのレビューもヒットしたので読んでみたら、「内容は良いのだけど誤植が多過ぎる」と書かれている。ですよねー、と納得しつつ読み進めると、単なる誤字・脱字、数式の間違い、参照先のわからない図表番号(そもそも番号のついた図表は無い…)、途中で切れた(そしてとんでもないところで続きが現れる)文章と、これでもかと言わんばかりのエラーが次から次へと襲いかかってくる。
このようなクオリティのものが市販の書籍として流通しているという事実には驚きを禁じ得ない。出版不況などということが言われて久しいが、こういった事案はその原因なのかそれとも結果なのか。
そんな状態であるから、統計学がどうのこうのという以前のところで、なんだかもうぐったりだ。
できることなら、蔵書からランダムに数十冊ほどを取り出して、誤植の発生頻度の平均を求め、本書のエラー発生頻度がそれと有意な差があるかどうかを検定するべきなのだろう。それが統計学的アプローチというものだ。が、わたくしそんなことをやっているほどヒマではない。
ちなみに、本書はとりあえず読破したものの、理解できた部分は決して多くない。しかしそれは、あり得ないほどの誤植の多さよりもむしろ、わたくしのアタマの出来に起因するものである、ということは公正を期すために申し上げておかねばなるまい。残念な事だが。