野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

鞍馬から牛若丸が出でまして名も九郎判官

昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は毎回楽しみに観ており、関連する小説の『炎環』や『北条政子』なども読んでみたりした。いずれも大変面白かった。
それらのドラマや小説には、源九郎判官義経が登場するのだが、だいたい「高い戦闘能力を持つけど落ち着きがなく、空気の読めないガキ」という感じのキャラクターで描かれている。
考えてみれば源義経が主役の小説というのを読んだことがない。映画やドラマも観たことがない。子供の頃に、京の五条の橋の上で牛若丸がどうのこうの、てな童謡を聞いたことがあるくらいだ。
で、実は数年前から町田康の『ギケイキ』を読んでみたいなと思っていた。しかし、いきなりあんなイロモノに手を出すのではなく、まずは正統派から読むべきだろう。とはいえ本物の『義経記』というのも、少々ハードルが高い。
そんな根性無しのわたくしのために、国民的作家・司馬遼太郎先生が『義経』を書いてくださっているのだ。

で、この小説で義経はどういうキャラクターかというと、やはり「合戦にかけては天才」である、ということになっている。そして、

合戦以外のこととなると別人であるかと思えるような政治感覚の無さ、物事の軽率さ、自負心の強さ、とめどのない甘ったれ、それらはまるで幼児か、痴呆にちかい(p.128)

というわけで、まあどうしようもない感じですわな。
何というか、天才なんだけど最初から最後までずっと勘違いしたままで、何を間違えているのか死ぬまで気付かなかった、みたいな書かれ方で。今だったらアスペルガー症候群とか言われるんだろうな。
義経以外では、武蔵坊弁慶ってけっこう知性派だったのね、とか、後白河法皇がドラマに負けないぐらいの癖強いキャラだったりするのが楽しい。あと、ストーリーの中でことあるごとに、西の貴族と東の武士のメンタリティや行動原理の違いみたいなのを解説されているのが、なかなか興味深い。当時の日本は、やはり小さな国の集まりで、ことに西と東、そして蝦夷っていうのはもう、まったく別の国だったのだな、と思う。
さて次はいよいよ本命の『ギケイキ』だな。