野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

万物に宿るトム・ハンクス

なんと。『なんらかの事情』を読んでから、もう10年も経っていたのか。

新作の『ひみつのしつもん』が出たのは知っていた。
けれども文庫になるのを待っていたのだ。
文庫になると、ボーナストラックが追加されるから。
そしていよいよ、満を持して、というところだ。予想通り、ボーナストラック大盛りで。

内容は今回もまったく期待を裏切らない。
単に社会不適合者のゆるいエッセイ、みたいな風を装いつつ、ちょっと気を抜くとあっという間に異世界に引きずり込まれて帰れなくなる感じ。現実とフィクションの境目がどんどん融解していく。
映画『レッド・ドラゴン』で、ハンニバル・レクター博士は「想像力の代償は、恐怖だ」と言った。
常識的で穏当な社会生活を送るための能力が少しばかり損なわれてしまったのは、常人には感知できないワンダーランドへの入り口を探り当てたり、日常生活の足元に亀裂を発生させ、そこからちょっとしたホラーを染み出させたりという、類稀なる妄想力の代償なのではないか。そんな気がする。