野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ああいう感じになるのもわからんではない

『ある男』がかなり良かったので、ちょっと他にも平野啓一郎を読んでみないと、と思いつつも、あえて『マチネの終わりに』とか『本心』あたりではなく、デビュー作である『日蝕・一月物語』に手を出してみた。

初っ端から、何じゃこら、とちょっとした衝撃に近いものを受けた。
普段まず目にすることの無いような漢字づかいにルビを多用し、異様に古臭く麗々しい文体で語られているのに、設定は中世ヨーロッパ。
修道士と錬金術。天候が続き、飢えた村人と堕落した僧侶。異端審問。
この感じ、どこかで… と思ったら『薔薇の名前』だ。
三島由紀夫ウンベルト・エーコを訳すとこんな感じになるんちゃうか。知らんけど。
そして後半の「一月物語」、これまたなんとも幻想的というかトリッキーというか、読んでいるこちらも蛇毒にやられて朦朧としているような気分になる。
これがあの『ある男』と同じ作者なのか、と思う一方で、まあ確かにそうかもしれんな、とも感じる。
ちょっとうんざりしつつも引き込まれる、ちょっと不思議な魅力の2篇でありました。