野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

あまりわたくしが心配しても仕方がないことかと

3ヶ月ほど前にリアル書店で紙の本を爆買いした中で、一番の難物が『21世紀の資本』だ。
結局手を出したのは一番最後、でもちょうど大型連休に入ろうとするところで、タイミングとしては良かったと思う。こんな本は、まとまった時間が取れる時に、一気にやっつけないと。

21世紀の資本

21世紀の資本

この本、もちろん日本でも話題になったのだが、何と言っても600ページを超える大著で、フィジカルにもデカくて重いし、値段も高い。ちょっと話題になっているからといってなかなか気軽に手を出せない。そうこうするうちに6〜7年が経ってしまい、ピケティはまた何やら新しい著作が出ているってな話も聞いて、やっとのことで思い立って衝動買いをしてみたわけだ。

経済学者のロックスター、とまでもてはやされたピケティで、あれこれ話題にもなっているので有名なのがあの、r>g という不等式だ。
資本収益率rが国民総所得の成長率gより大きいと、格差は拡大するばかりなので、資本には適切な累進税をかけなければならない、というのがピケティの主張なわけだが、それだけのことを言うのになぜ600ページ超を費やさねばならないのか、という気はしなくもない。だいたい、中盤になるまで格差云々の話は出てこず、18世紀から2010年代にいたるまでのヨーロッパ各国(フランスとイギリスが中心だが)における資本の所得に対する比率やら何やらについての分析が延々と続いている。
いったい何の話をしているのだ?と言いたくなるが、つまり、超長期のトレンドを見ていけば、途中2回の大きな戦争があってちょっとの間ぐちゃぐちゃになってたけど、今後(つまり21世紀)は上記の不等式 r>g が成り立つよねどう考えても!ということなのだ。
これだけの膨大なデータをもとに緻密な分析を重ね、次から次へと畳み掛けられたら、なんだかよくわからなくても(よくわからないほど、と言うべきか)「あるいはそうかもしれない」と思ってしまうわな。
数字だけでなく、いろんな小説(特にバルザックの『ゴリオ爺さん』は何度も登場する)や映画まで参照して説明するあたりもなかなか面白い。

でもねえ、自分の銀行口座にある定期預金の利率が0.002%とかなのに、資本収益率が5%、とか言われてもまったく実感ないけどね。いやわかってますよ、5%は平均値、でしょ。金額そのものも軽く4〜5桁は違うし。
でもそうすると、世の中には数十%とかいうような収益率の資本もあったりするのだろうな。まあリスクも相当にデカいのだろうけど。想像を絶する世界だな。

それにしても、フーコーの『言葉と物』とかモノーの『偶然と必然』とか、そしてこの本とか、なんでこんな小難しい本がフランスではベストセラーになるのだろう?フランス人って変態か。