野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

伊藤・イン・ワンダーランド

「オーデュボンの祈り」って伊坂幸太郎のデビュー作だったのか。

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

いつの間にか不思議な島に連れてこられてきていた主人公の「伊藤」。その島には、何かが欠けているという。欠けている何かって、現実感だろ、と伊藤が言うように、色んなことが少しづつおかしい。しゃべる案山子。事実と反対のことしか言わないという、気のふれた画家・園山。普段は静かに詩を読んでいて、独自の基準で誰かを射殺する男・桜。太りすぎて動けなくなり、市場に住んでいる女・ウサギ。マトモなやつは一人もいない。まるで「不思議の国のアリス」。そして、伊藤が以前にいた仙台の街には、暴力と邪悪さを純粋なかたちで人格化した、警察官にして伊藤の同級生・城山がいる。徹底的に邪悪でサイコパスなキャラクターというのは、伊坂作品においては非常に重要な役割を演じるわけだが、すでにこのデビュー作で登場していたんですな。
これらの怪体な連中によるデタラメとしか思えない行動は、実はある一つの物語にきっちりと回収されていく。あ、この話型も伊坂作品の常道か。
面白かったす。けどやっぱり一番好きなのは「グラスホッパー」と「マリアビートル」だな。