野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

魯粛のオジキも大活躍

待望の「泣き虫弱虫諸葛孔明」第参部が、ついに文庫化された。
数ある三国志小説の最高峰だと思う。っていっても、他の三国志小説は(北方謙三版以外は)読んだこと無いけど。

わたくしの場合そもそも子供のころに、王道の吉川英治版を読まなかったのがいかんのだろう。北方謙三版で初めて三国志を読んだのは、もう大概ヒネた大人になってからだった。だから、読めば読むほど三国志の英雄たちは、なんかこいつらかなりおかしいぞ、という感想になってしまうわけだ。ピアノやヴァイオリンの演奏は幼少のころから始めないと、まず一流の演奏家にはなれない、というのと同様に、遅くとも中学生ぐらいまでには吉川英治版の小説か横山光輝版のマンガでしっかりと刷り込みをしておかないと立派なサンゴクシシャンにはなれないのだ。
そんな、劉備張飛曹操、そして諸葛亮の言動に対していちいちどうにもすっきりしない思いが募って行くという、サンゴクシシャン失格な読者のためにあるのがこの酒見版「泣き虫弱虫諸葛孔明」シリーズだ。いやもう、読み進めるうちに、実に様々なことが腑に落ちて、膝を叩きすぎたために膝の皮膚が破れて出血し、あたり一面が血まみれだ。
さてこの第参部はいよいよ、三国志といえばこれ、といっても差し支えない「赤壁の戦い」だ。したがって主役は、孫呉の名将にしてイケメン将軍、美周郎こと周瑜公瑾である。おそらく三国志のなかでもベスト5くらいに入る人気キャラだろう(知らんけど)。諸葛亮に対しては怒涛のごとくツッコミを入れまくっていた作者も、あまりに男前すぎるせいか周瑜に対してはどこか遠慮している、というかちょっとエコヒイキしすぎじゃないか?というあたりちょっと微笑ましくはある。それでも、変質者孔明に対して激しい殺意を抱く美周郎があれこれ策略をめぐらすも、悪知恵では孔明にかなわずさんざんコケにされるの巻。今回も大変に楽しめました