野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

5人がかりですやん

マルクス・ガブリエルが哲学界のロックスターなどと呼ばれているけど、「世界は存在しない」とかいうあのトリッキーな言説は、実は単なるブルシットだったりはしないだろうか。

非常に強い興味を覚える一方で、そんな疑惑を拭い去ることができない。
己の知性の不調は棚に上げて、罰当たりな話だとは思うが。

それでは、と『世界史の針が巻き戻るとき』を読んでみたが、どうもすっきりしない。肝心なことが説明されてないんじゃないか、という気がする。
やはり、あんなインタビュー集ではなく、ちゃんとした著作を読んでみるべきなのかもしれない。そう思って今度は『新実存主義』に手を出してみた。

新実存主義 (岩波新書)

新実存主義 (岩波新書)

うむ。200ページ弱の本の中で、ガブリエル自身が新実存主義について説明している部分は60ページ強、全体の1/3ほどじゃないか。
最初の10ページほどが、ジョスラン・マクリュール(誰?)による「序論」。
そしてガブリエル本人による、新実存主義についての60ページ強ほどの論文、それに対してチャールズ・テイラー、ジョスラン・ブノワ、アンドレーア・ケルンといった面々(だから誰なんだよあんたら)による解説だか批判だかが続き、最後はそれらに対するガブリエルの論駁で締める、と。

とりあえずはガブリエルによる論文、これがわからん。
あまりにわからないので、2回読んだ。

結局お題は、「心」とか「精神」(英語のspiritともmindとも少し違っているのでGeistとドイツ語でいうしかないらしい)とはいったい何なのか、脳の働きに過ぎず、生理学の対象として、化学反応や物理現象として記述しきれるものなのか、ということであるらしい。
上記の問いに対して、その通りである、と答えるのが「自然主義」であり、唯物論とか還元主義と同じような意味合いだと思うのだけど、とにかくそういう考え方が、上記の論文ではガブリエルによる攻撃の対象となっている。
そうじゃないだろ、と説くガブリエルの理路は、じっくり読めば「なるほど、あるいはそうかも知れない」という感じで納得できなくもない。
しかし、それじゃ一体どういうことなんだ、という素朴な疑問には、答えてくれない。
いや、ちゃんと答えているのだけどわたくしが理解できていないだけなのだろうか。
そんなもんいちいち説明しなくても自明だろ、というような何かをつなぎ合わせて、「だからそういうことなんだよ」みたいになっているのか。

そうだとすると、これはちょっともうお手上げ、という感じだけども。
心と脳の関係について、サイクリングと自転車の関係に似ている、なんて説明されているけど、それは残念ながらわたくしにはちーとも理解できなかった。

とりあえず自分のアタマの出来については横に置いて、やはり疑惑は深まるばかりなのである。