超有名なのに読んだことがない本、というのはいろいろある。
『1984年』(あるいは『一九八四年』)もそのひとつだった。
いずれは読んでおかなければな、と思っていたら、最近になって新訳が出たのだとか。古い小説というのはなかなか読みにくかったりするものだが新訳なら、ということで読んでみた。
ところがちょっと勘違いがあったようで、世の中にはすでに1972年の旧訳(新庄哲夫訳)と2009年の新訳(高橋和久訳)があり、上記で「新訳」と言っているのはまた別物だ。つまり古い新訳と新しい新訳があるわけだ。
さらに話をややこしくしているのは、旧訳より以前にさらに古いバージョン(吉田健一・龍口直太郎訳)があった、ということだ。こちらはすでに絶版になっているようだ。
今回Kindleストアで買った時点では、新しい新訳はまだでておらず、古い新訳(ややこしいなまったく)を読んだというわけだ。
- 作者:ジョージ・オーウェル,高橋 和久
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
しかしながら、後に小説にとどまらず、映画、音楽などなど数多くの作品に影響を与えてきた作品で、なるほど確かにこれはすごいな、と思う。しかしまたなんとも言えず陰惨で憂鬱な、どうにも救いのないディストピア小説だ。
そしてフィクションのはずなのに、昨今の情勢を見回すと、なんだか妙なリアリティもあったりする気色の悪さ。本作が発表された1948年から70年あまりを経て、ついに現実が虚構に追いついてきたか、という感じである。
巻末に解説のある「ニュースピーク」などは興味深い。言葉を破壊することはすなわち権力者が統治を容易にしていくことにつながるのだな、と感心してみたり。
辛気臭い小説だが、なるほど傑作であるなあ、と思ったことだった。