野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

気候変動はバグですね

秋の後に短い春が訪れることがあり、「旅春」と呼ばれている。などと『偶然の聖地』に書いてあって、へえー知らんかったな。出典は『史記』とか『春秋』とかその辺かな、などと思ってググってみても、出てくるのは「春におすすめの旅行先12選」とかそんなんばっかり。どういうことよ?と思って読み進めると、この旅春は時空のかかる病、いわば世界のバグであり、それを修正するのが「世界医」である、などと続く。つまり旅春云々などというのは出まかせのホラだったのだ。してやられた。

しかしこの小説は、ほとんどがこのようなホラ話で構成されている。それも、事前にしっかりと構想されたわけではなく、けっこう行き当たりばったりで展開していく物語であるらしい。とすると逆に、よく最後まで破綻させずにこの不思議極まりないストーリーを作り上げていったものだなと感心する。
時空の病、神々の作り上げた世界の不具合を修正する「世界医」たちの活動は、プログラマーのそれになぞらえられており、随所に出てくる、いわゆるオブジェクト指向プログラミングの述語を多用した記述は、いわばソフトウェアエンジニアの楽屋落ち満載になっており、かなりオーディエンスを限定するように思うのだが大丈夫なのだろうか。もちろんソフトウェアエンジニア崩れのわたくしなどはけっこう楽しめたのだけど。
あと特筆すべきはやはり、正気を疑うほどの脚注の多さか。それわざわざ脚注に入れる必要あるのかとか、むしろ話をわかりにくくしているとしか思えないものとか、著者の特定の意図を含めた(そしてストーリーの進行にはまったく関係ない)内容とか、それだけで独立したひとつの作品と言っても良いぐらいの異様なものになっている。
そんなわけで、とにかくどこまでも奇妙な小説だった。でもまあ嫌いじゃないです、こういうの。