野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

下品で粗雑だが重要だ

タイトルは『パンデミック以後』だが、この本が出たのは2021年、つまり新型コロナウイルスパンデミック始まって一年ちょい、といったところだ。その頃にエマニュエル・トッドはいったい何を言っていたのか、というのを今、つまり2023年に改めて読んでみるのも面白いかもしれない。

トッドは、トランプ大統領のことを「米国の歴史の中で重要な大統領」である、という。
何でやねん、あんなんブルシットのチンピラやんけ。と思ったが、トッドもその点は別に否定していない。
「不快な政治スタイル」「下品で好きになれない」とはっきり言っている。
「偉大」ではないが「重要な」大統領であったというわけだ。
なるほど。
レーガン以降のネオリベラリズムが進み、人々は「グローバリゼーション・ファティーグ」に苦しんでいるいま、時代が新しい局面に入っており、そこでは少々「逸脱した」人物が求められる、と。
トランプはウンコみたいなおっさんだが、自由貿易から保護主義への転換という方向性自体は正しい、ということのようだ。
この「グローバリゼーション・ファティーグ」の件は以前から何度もトッドは言及しているが、そこで言わんとしていることが、やっと(何となくだが)わかってきた気がする。

そして、ソ連崩壊について。
まあ古い話なのだけど、西側諸国の共産主義体制崩壊との向き合い方がまずかった、と言っている。
共産主義の崩壊を、西側諸国はネオリベラリズムの勝利であると解釈してしまった。しかしネオリベラリズムなんぞはマルクスが批判した古い資本主義の再来である。そんなものの導入を進めたことで、あらゆる種類の行き過ぎにつながった。それは例えば、結果としてNATOによってロシアを囲い込んでしまうことになったと。
ソ連崩壊時にロシアは、歴史的、文化的につながりの深いウクライナの独立を受け入れたが、結局は西側諸国に裏切られた。西側からロシアに送り込まれたネオリベラリズムの信奉者による助言は、ロシアに混乱を招いただけであった。こういった経緯が今になって、ウクライナ侵攻につながっているということか。
どこまで間に受けて良いのかわからんし、もひとつ理屈が理解しきれないところもあるのだが、へーなるほどそういう見方があるのか、という感じでなかなか面白い。